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システムダイアリー誕生物語第1章 システムダイアリー誕生物語第2章
システムダイアリー誕生物語第3章 システムダイアリー誕生物語第4章
一国一城の主となったとき、奈良は自分たちの手帳がほしいと思った。それは少年時代からの夢でもあったし、多忙な仕事をこなしていくには、所員にいい手帳を持たせなければならないという現実的な必要にも迫られてからである。
「きみたち、どんな手帳を使っている?」
技術者たちに聞いてみると、胸を張って愛用の手帳を見せる者は一人もいなかった。いずれも顔をしかめたり、頭をかいたり、口々に使用中の手帳の欠点を並べたてるのだ。
「どれも同じようでまったく個性がありません。」
「万人に使えるようにという考えが、実は万人に使いにくくしているんじゃないでしょうか」
「手帳についている住所録はなんとかならないものだろうか。毎年のようにうつし変えるのがへんどうだね」
「年に一度ならまだいい。ぼくは記録魔でどんどんページを埋めてしまうから半年で手帳を使いきってしまう。年に二度も住所録を転記しなきゃならないんだ」
「私は手帳を破いてメモを渡すくせがあるものだから、綴じがバラバラになっちゃうんです」
「昔の手帳に書いてあったことが急に必要になることがありますね。何年度の手帳だったか、思い出すのに苦労しますよ」
「ぼくもそうだ。運よく昔の手帳をさがし出しても、肝心の記事を見つけるのが大変。手帳は一年ごとに新しくなるということ自体おかしいと思うな」
「といって、三年連続日記をいつも持って歩くわけにはいかないし・・・結局のところ、どの手帳を使っても不便ということだ」
そんな話を聞いているうちに、奈良は彼等と意見を戦わせながら、理想的な手帳をつくってみたいという気持ちになった。
「どうだろう、みんなでこれまでの手帳のマイナス面を調べあげて、われわれの研究にふさわしい専用のダイアリーをつくってみないか」
その提案には全員が賛成した。考えることが飯よりも好きな連中である。さっそくブレーン・ストーミングが始まった。
「手帳のページ数が限られていることが根本的な欠陥だよ。ぼくは手帳にカードの考え方を入れたい。必要なカードを必要量だけ持って歩く。あとはデスクの引き出しに保管しておくのはどうかな」
「それはいい。たくさんの種類のカードをつくって、配列も分量も各人の好きなように変えられるべきだ」
熱心な討論の末、自由に取りはずしのできるバインダー方式を採用することが決まった。
コンピュータの技術者たちだけあって、話し合っているうちに専門用語がポンポン飛び出してくる。
「コアだけではいかんということだ」
「そのとおり。磁気テープや磁気ディスクにかわるものをつくらにゃいかん」
「IRをどうするかね」
コアとはコア・メモリー(主記憶装置)のことで、常用使用する情報を入れておく部分である。ここでは手帳本体のことだ。
磁気テープや磁気ディスクは普段使用しない大量の情報を記憶させておくもの。つまり、保存すべきカードである。
IRとは情報検索。必要な情報を即時に拾い出す技術のことだ。
「日記もカード式にすれば、いくらでも長く書ける。予定表は週間、月間、半年と三種類ほしい。住所録も金銭出納記録も、従来のものを総点検して、最も合理的なスタイルに改めよう」
「用紙は無地、タテ罫、ヨコ罫、方眼、原稿用紙など、すべて用意したいな」
「ぼくは対人関係の資料になるデータシートを考えてみるよ」
こうして、バインダー式手帳とカードボックスを有機的につなぐ専用手帳のアウトラインができあがっていった。
「カードボックスはプラスチック製にしよう。デスクの引き出しにぴったりおさまるサイズにするべきだ」
「ファイリング・システムを上手に使うには、インデックスが見やすく、カードのどこをさわってもV字型のスペースができることだ。ボックスがどんどんふえていったときの状態を考慮に入れて奥行きの寸法を決めよう」
議論百出したのは、手帳そのものの大きさだった。カードの面積が広くなれば1ページ当たりの情報量は大幅に増加する。しかし、シャツのポケットに入るサイズという意見が通って、タテ十四センチ、ヨコ八センチと決まった。これはパンチカードや航空券と同じ大きさであり、将来、コンピュータ処理が可能になったとき、すぐ適用できるという含みをもっている。
「やったぞ、ぼくらの小さな手帳の中に、コンピュータの原理を詰め込んだ。カードボックスは、てのひらにのせることのできる情報整理システムなんだ」
奈良をはじめ技術者たちは、何回も討論を重ねて、ついに専用ダイアリーの製作計画を練りあげた。
「早いとこ印刷屋に注文しましょうよ」
「私は友人にプレゼントしたいから、十冊予約します」
子供のようにはしゃいだが、彼等は理想を追うあまり、現実的な問題を忘れていた。業者にカードボックスの製作を依頼したら、
「五十個や百個では、とてもお引き受けできません」
ピシャリと断られてしまった。
「では、何個まとまればつくってくれますか?」
「最低五千個だね。型代が九百万円、デザインが十万円・・・もっとたくさんつくらないと単価が高くなるね」
「待ってくれ、うちの所員は二十三人きりなんだ。五千個なんてとんでもない」
奈良は途方にくれた。十三年間の体験と専門家たちのアイディアを結集して、やっとつくりあげたプランである。いまさらやめるわけにはいかなかった。
「いい物なら、どこかに希望者がいるはずだ。とにかく五千個つくってからハケ口を考えよう」
ハラを決めて、カードボックスを注文した。
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