NARACOM SD(システムダイアリー) と あいうえおキーボードのナラコム
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「日本を救うソシオ・ビジネス」第四章より  二、ケース・スタディ  ―  社会価値創出ビジネス

ナラコムのケース

単純明快な知的生産システム

  最初に、日本における典型的なバリュー・ビジネスの担い手である「ナラコム」を紹介しよう。この会社は、日本人としては希に見る発明家であり、アントレプレナーである奈良總一郎社長が約30年前に設立したものである。奈良社長は、1960年に日本で最初に汎用コンピュータを使った共同計算センターを設立した人であり、わが国のコンピュータ業界の草分けの一人である。
  また彼は、1974年には独自開発のモニター付きパソコンを「ビジネス・ショー」で発表した。これは日本で最初に形になったプロトタイプのパソコンといえるだろう。日立、NEC、富士通など大手メーカーが大型コンピュータ開発に血眼になっていた時に、一介の個人が次の時代を担う新たなコンセプトを提示して見せたのである。その先見性には驚く外はない。
  このナラコムの世に知られる中核となるビジネスは、システム・ダイアリーの発売である。それも大ブームになったこの数年にスタートした話ではない。システム・ダイアリーをコンピュータ手帳というサブタイトル付きで売り出したのは、何と1968年のことである。私が大学五年のときである。
  次の年に卒業して社会人になった私は、知的生産に関心を持ち、その道具に凝るタイプだったから早速この手帳に飛びついた。当時プロフェッショナル部隊に入る前で、まだ教育部門でコンピュータ関連のセミナーやコースの企画・開発をしていたから、コンピュータ・システムにもとづき設計されているこの手帳の基本コンセプトもすぐ理解できた。
  何しろ、日本能率協会は当時、事業部門の一つで能率手帳というベストセラーを出していて、社員にはこの手帳がただで配られていた。そんな会社に勤めている人間が興味をひかれ、早速入手したほどの凄い手帳だったのである。
  ちなみに奈良社長は、このシステム・ダイアリーについては「システム手帳」の商標登録をしなかったばかりに、後に後発の企業から折角の商品名を使われてしまうことになり、現在、同社の商品は「システムダイアリー」(商標登録済)と呼ばれている。長年コンピュータのシステム改善のコンサルタントとして活躍してきた奈良社長が、知的生産のトータルなシステムとして完成させ発売したのがこのシステムダイアリーなのである。
  すなわち、このシステムダイアリーはパンチカードを基本にし、パソコンのマークリーダーにも読める8.4センチ×15センチのリフィル、背広の内ポケットやシャツの胸ポケットに入るポータブルでハンディなサイズの八穴バインダー手帳(パソコンのコア・メモリーに相当)、さらに膨大な記憶を体系的にストックするための専用ケース(カード・ファイリング・システム)の三つから成立している。
  使い方は簡単である。自分に必要なリフィルを選んでオリジナルな自分用の手帳を設計する。リフィルはバインダーに綴じて持ち歩き、必要な事項を一件一葉で書き込む。そうしてある程度たまったら、バインダー手帳から外して自分なりに分類をした専用ケース(カード・ファイリング・システム)に収納するのである。
  こうした単純明快で目に見えやすい知的生産システムとして、システム手帳の人気は高く、愛用者は約50万人に上るという。パソコン全盛の時代になり、シャープのザウルスに代表されるモバイル情報端末が普及しても、使い勝手の面で圧倒的にシステムダイアリーの方が優れている。単なる手帳ではなく、人びとが合理的に考え行動することを支援してきたこのシステムダイアリーの果たした役割は、限りなく大きいといえるだろう。

キーボード・アレルギーの解消

  その奈良社長が、新しく生み出しのたが、ナラコムのキーボードである。もともと共同計算センターをやっていた頃、タイピングの際に入力ミスが相次ぐ経験をしたことから、使い勝手のよいキーボードを開発する必要性を感じたことが、後にこの商品が誕生するきっかけになったのである。
  ナラコムのキーボードは、基本的に50音順でキーが配列されている。キーボードの右半分に、「あかさた行」が配列され、左半分にその他の行が配列されている。これは、日本語の文章の85%が「あかさた行」と「ん」と「濁点」で占められていることに対応している。また、全音節の約20%と使用頻度の高い「きょう」や「しょう」などの拗音が特定のキーに張りつけてあり、シフトキーと一緒にワンタッチで打てるようになっている。
ローマ字TYO U
4
NYU U
4
RYOKU
5
HO U
3
合計
16
タッチ
JISかなちょう
3
にゅう
3
りょく
3
ほう
2
合計
11
タッチ
ナラコードちょう
1
にゅう
1
りょく
1
ほう
1
合計
4
タッチ
  そのため左の表に例示しているように、「超入力法」と打つのに、ローマ字入力が16タッチ、JISかな入力11タッチであるのに対して、わずか4タッチという革命的な入力方法だ。
  いうまでもないことだが、上段の左から「ぬふあう・・・」とはじまる何の規則性もないかな入力のキーボードは犯罪的である。「なんでこれがJIS規格なの!」と思わず叫び出したくなる代物だ。これでブラインド・タッチをしろといわれたら、間違いなく誰でもキーボード・アレルギーになるだろう。
  一方、ローマ字入力は、グローバル時代に生きる人びとにとっては外国語表現上必須のものだが、日本語の入力手段としては二つの大きな問題がある。一つは、タッチ数がやたら多いことである。もう一つは、もともとわれわれ日本人の脳の構造は50音順に慣れているから、ものを書くという行為の途中で、何の意味もない異質なローマ字を介在させるのは不自然だということである。
  その点、このナラコムのキーボードならキーの場所を覚える必要がないから、あえてブラインド・タッチをするまでもなく、誰でもその場で、すぐに頭の回転する程度の速さで打てる優れ物である。誰でも使える典型的なバリア・フリー商品の代表選手だとえいるだろう。
  かつて、日本語の制約を突破して日本語ワープロが誕生したことは日本の知的生産にとって革命的な出来事であったが、このキーボードの誕生によって最後のバリアが克服されたといえるだろう。
  このナラコムのキーボードが持つ存在的な可能性は以下の四点である。まず、第一に、コンピュータ・ネットワークの嵐に巻き込まれているキーボード・アレルギーに悩む多くの中高年を救うことだ。これでも駄目だという人は、最早、日本人をやめろといわれかねないぐらい使いやすいものだからだ。企業の立場からすると、大幅に教育訓練費用を少なくして速やかに社内ネットを構築出来るというメリットがある。

アルツハイマー防止に大いなる効果

  第二は、高齢化の進展のもとで、その増大が心配されているアルツハイマー防止にとって大いなる効果を発揮することだ。このキーボードは高齢者にも使いやすいから、彼らが日常的にこのキーボードを使ってメールを出したり日記を書いたり自分史を書いたり、地域のさまざまな歴史についてまとめたりするのにも適している。
  彼らの作品を地域の小中学校の教材に使ってお年寄りと子供の交流が図れれば、教育効果は高いだろう。望ましくは、パソコンの使い方をマスターした小中学生がお年寄りにその使い方を教えるところからスタートすれば、双方向でのやり取りがさらに高まることになる。
  第三は、これまでこの国で比較的なおざりにされてきた日本人の論理的な思考能力に磨きをかけることが期待できることである。キーボードはこれほど使い勝手がよくなれば、原稿用紙に書くのと違い、画面上で比較的自由に文章を組み立てられるワープロの簡便さとあいまって、ものを書くことへの抵抗が大幅に減少するだろう。書くことは思考を収斂(しゅうれん)させることであり、頭をよくする大事な方法論である。ナラコムのキーボードがきっかけになって、まさに日本人が変わるかもしれないのである。
  第四は、外国人にとっても日本語の習得に適したキーボードだということだ。例えばローマ字入力では、「たけ(竹)」と「Take(テイク)」を混合しやすいからである。50音順から学ぶ初心者の外国人や日本人の幼児にとって、このキーボードほど明快で分かりやすいものはないだろう。ナラコムのキーボードは日本語のグローバル化にも大いに貢献するだろう。
  このように、バリュー・ビジネスを展開するナラコムの扱う商品は、システムダイアリーもキーボードも単なる類似商品の一つという位置づけをはるかに超え、日本人の抱えるさまざまな課題を突破していく上で重要な役割を持っている。
  その意味で、同社は大事なバリュー・ビジネスを展開している典型的な社会価値創出企業といえるのである。


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